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ハガキでは間に合わないときの手紙ばこ。

大衆小説が他者への迎合ーーつじつま合わせと納得の文学ならば、不条理を不条理のまま受け入れる純文学は、不可能を可能にする

舞台 文豪とアルケミスト
『嘆キ人ノ輪舞曲』感想

 

さくっと感想!

犀星くん、相変わらず身軽!!
ぴょいぴょい跳んでて出て気持ちいいね!

「夏目先生、足長い」←それな!!

海外組のスケールのでかさやばい……!
泰然としてらっしゃる……!!

乱歩さんの安定感…。
舞台に乱歩さんがいるとすごく安心する。

っていうか今回の殺陣、ヤバくない?!
なんかこう、いつも以上にキレッキレでカッコよさがやばいんだけど…!!
ヤバくない?!!!

 

…さて、ここからネタバレありの感想になります。
まだの方、ネタバレNGの方はブラウザバックをしてください。

 

大衆小説が他者への迎合ーーつじつま合わせと納得の文学ならば、不条理を不条理のまま受け入れる純文学は、不可能を可能にする

 

ポー様の名推理、


「有碍書が浄化されたときに、芥川が取りこんだ負の感情も一緒に浄化されたのだろう」

……いや、そうじゃないんじゃない……?

(これは私の感想・意見ですが)

芥川が取りこんだ負の感情は、消えてなんかいないんじゃない??

芥川は久米の負の感情を取りこんで、吸収して、その上で地獄の底から這い上がってきたんじゃない…!!

つまり、

負の感情×負の感情で、スーパー芥川になって帰ってきた!!

んじゃない?!

マイナス×マイナス=プラス、みたいに。


芥川の心はきっと、大衆小説家の推理なんかで量れないぐらい、深い。
パワードの、


「理解できない。理解した」


というセリフは、ロジックでは説明できないことが起こっている、ということの暗示なのではないだろうか。


タイトル考察

『嘆キ人ノ輪舞曲』

「嘆キ」を負の感情と解釈するなら、

「文豪は、恨みやねたみ、憎しみを何度も何度も積み重ねながら、止まることなく踊り続ける」

といったところだろうか。
そして、恨みやねたみ、憎しみという負の感情の積み重ねが、彼を、芥川を強くしたのではないだろうか。

負の感情の積み重ねの果て、一段と強くなった芥川だからこそ、久米の負の感情をも取り込み、最後に進化して帰ってくることができた。


負の感情が、彼を彼たらしめた。


まとめ

大衆小説と純文学。
エンターテインメントと不条理な現実。
海外文学と日本文学。

ポー様(欧米)はエゴを、個人のわがままを肯定するんですよね。
たとえ他者を傷つけることになったとしても、自分の意思は自分の意思として尊重する。

でも、日本文学は違う。
己のエゴで他者を傷つけてしまったとき、自分はそのエゴを肯定できない。

「俺も『向上心のないものは、馬鹿だ』とか言ってあおったけど、Kが死んだのはKのせいじゃん?」

なんて言えない。
他者を傷つけてしまった己の浅はかさを、己の愚かさを責めずにはいられない。


ところで、犀星くんの、


「たとえフィクションでも人の死をおもちゃにするんじゃねぇ!」


っていうセリフは刺さりましたね…。
現代において、他人の死はエンターテインメントですからね…。
大量虐殺なんて、もう陳腐化しちゃったし。


こゝろ』の中で雑司ヶ谷の墓地にいた"先生"の姿は、漱石先生そのものでした。

(『こゝろ』は、私小説ではありませんが…)

漱石先生は、"先生"の負の感情に引きずり込まれてしまったのかもしれない。


……あの中で、「ぼんやりした不安」のために命を絶った芥川だけが、誰よりも負の感情を持ち、闇に堕ちていったとするならば。

不安を、不安のまま。
負の感情を、負の感情のまま。
マイナスをマイナスのまま持ち続けた芥川だからこそ、久米の負の感情を肯定できたのかもしれない。


負の感情を、負の感情のまま肯定する。

今回の文劇のテーマは、これなんじゃないかなあ…。
欧米のように、ポジティブな感じに変換するのではなく、ねたみをねたみのまま、憎しみを憎しみのまま肯定すること。

後暗い、どろどろした真っ黒な気持ち。
負の感情を、負の感情のまま肯定した芥川だからこそ、ロジックを超え、不条理を超えて、新たな結末にたどりつくことができた。

…そんなふうに、私は思いました。


はー! おもしろかった!!

…実は、芥川が帰って来たとき、

「え?? そんなのあり!????」


っていう感じで混乱したのですが、エンドロールでふっ、と思ったんですよね。

芥川の中の負の感情は、消えてなんかいないんじゃないか? って。
だって、文劇ですよ?!

久米の負の感情、浄化されてキレイになくなりました〜☆

なんてありえなくない??
恨みやねたみ、なかったことになんてしなくない??
だって文劇だよ?!   っていう。


ところどころ論理の飛躍もありますが、感想の一つとして読んでいただけると幸いです。
では、文劇の役者さん、スタッフの皆さん、素敵な作品をありがとうございました!
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